日時2020年 1月 18日(土)14:00〜16:30
会場 :中大付属中(工作室)


内容 金属加工では子どもの状況も考えあわせて教材の選定を


  1月の定例研究会は第三土曜日の午後に実施したが、当日は朝から降っていた冷たい雨が途中から時折雪に変わるという天候にもかかわらず、かなりの参加者があった。また、この日の研究会のために、遠方から、各種交通機関を乗り継ぎ、何時間もかけて会場へ駆けつけた参加者もいた。
 さて、この日は板金加工がテーマで、金属板を用いて生活に必要なものを製作することを主眼に、スプーン作りに取り組んでみることにした。加工材料の準備や製作指導は野本勇氏が、工具類の準備は会場校の禰覇陽子氏がそれぞれ行った。
1 金属材料にあわせて加工方法や使用工具を工夫して製作する     野本勇
 現職の頃は、簡単な実験をおりまぜながら、金属の加工上の性質(弾性・塑性・加工硬化)に関する学習をした後、製作に移っていた。板金加工には薄板金と厚板金があり、薄板金ではちりとり作りが、厚板金ではブックエンド作りがそれぞれ昔の代表的な教材であった。授業時数が減り、子どもを取りまく生活環境も変わった現在では、製作過程の見通しがつき、そのうえ比較的短時間で製作できる教材が子どもに人気がある。加えて、作品完成後に使い途のある教材が、子どもの興味・関心を持続させることにつながっている。このようなことから、今回はスプーン作りを取り上げてみる。
 野本氏は、スプーン作りに取りかかる前、気をつける点として「金属は、いったん力を加えて加工すると、完全には元にもどらないことに注意しなければいけない。したがって、作業は一発勝負となる。また、材料の金属にけがきをするとき、けがき針を使うのがふつうだが、この方法だとまちがえた場合に修正ができないので、油性ペンを使ってけがきをさせるのがよい」ことをあげた。その後、参加者は、金属の種類や材料の厚さを変えながらスプーン作りに取り組んでみた(写真1)。スプーンの丸い部分の加工には専用のジグがあったほうがよいということで、中央部にくぼみがつけられた丸太が用意された(写真2)。「厚さ2mm程度のアルミニウム板を使うのだったら、作品完成後はアイスクリームを食べるときに使わせると、熱伝導の関係から都合がよいだろう」という話が野本氏からあった。
 作業を進めながらの意見交換や作業終了後の討議(写真3)で出された意見の中からおもだったものをあげておく。「スプーンは首にあたる部分の強度が落ちやすいので、ある程度の強度を保つには材料の厚みを増せばよいのだが、そうすると加工が難しくなる。そのあたりを考えあわせ、金属の種類と材料の厚さを決めるのがよい」、「今回はジグとして丸いくぼみがつけられたものが用意されたが、このジグを使って加工すると、食品をのせる部分の傷が目立つことになる。たとえ磨いたとしても、完全には消えない。それならば、つの床のような形のジグを用意してやってみたらどうだろうか。これならば、ハンマの平らなほうでたたくことになり、少しはちがうのではないか」、「使用目的にあわせて材料を選ぶ。逆に、与えられた材料にあう加工法を考えて作業する。どちらも大事にしたい」、「近頃は 100円ショップでも工具類が売られている時代だが、ドリルやはさみなどの工具は品質のよいものを準備して使わせたい」。
 次に、教材の選定の観点からの意見をまとめておきたい。「近頃の子どもは、作業工程が複雑で先が見通せない難しいものの製作は尻込みする傾向がある。だから、スプーン作りのような、切ってたたいて磨けば完成するという比較的単純な教材ならば、興味・関心を持って取り組む。これからの教材選択にはこうした視点も大事なのかなと思う」、「金属加工では加工精度が問題となる場合が多いが、スプーン作りはそうした点を気にせずに作業できるという利点もあるのではないか」、「材料として木材を使うより、金属を使ったほうが加工後の変化がおもしろいと感じる子どもが多いようだ」、「板金加工で、教材として移植ごてを考えてみたのだが。これならば、自分の作ったものを口に入れる食事の道具として使うという抵抗感は一切ないが」。
 「学習指導要領の変化の影響か、中学生時代に使った経験もない機械や見たことすらない工具類が技術室やその準備室に置いてあると感じる、若い教員が多くなっているようだ。そのためだろうか、人口減少などで学校の統廃合が行われた際、使われなくなった機械・工具類が校舎の解体に伴って処分されてしまう運命にあることが増えているのではあるまいか。大変残念な限りである」という意見があったことを最後に付記しておく。 




   


研究会に対する問い合わせ先

野本 勇